--第二部--

戦乱のイシュバーン

タムリンがイシュバーンに帰った頃、イシュバーンは何処からともなく現れた魔族の軍勢に蹂躙されていた。

この大陸唯一の王国であるエルバードの軍隊はこれに応戦。
戦いの優劣は甲乙つけがたく膠着状態に陥っていた。

大地には無数の人間の死体そして人外の魔物の死体が転がっている。

「これが・・・イシュバーン?」

ささやかでも人間としての幸せをつかもうと帰郷を果たしたタムリンの思いは虚しく消えた。

タムリンの帰郷から数年の月日が流れた頃。
力の均衡を保っていた両軍に変化が見られた。

魔軍に魔将軍オストラコン率いる新鋭部隊が現れたのだ。

人間でありながら魔族にその身を落としたオストラコン。
その残忍な性格と手段を選ばぬ策略により王国軍の旗色は悪くなり、
王国の重要拠点ドゥルグワント城で大敗を喫した際に戦力をほとんど失ってしまった。

今、想いを込めて

王国の将軍サダの守る砦が落とされれば、エルバード城が陥落するのは時間の問題であった。
王国が落ちればイシュバーンは魔族のはびこる闇に包まれた大地になってしまうだろう。

まだ戦火の及んでいないウルワンの町にタムリンはいた。
戦で傷ついて送り込まれてくる兵士達の看護の日々を送っていた。

ある日、運ばれて来たのはまだ年端もいかぬ子供達だった。
子供達の助けを求める悲痛な叫び声、凄惨な光景を目の当たりにしたタムリンは思わずその場を飛び出す。

溢れる涙、手にはあの角笛がしっかりと握られていた。
タムリンのその心は魔軍への怒りと戦う決意に満ちている。

あの時と同じ夕陽に染まる丘に立ち、タムリンは想いを込めて角笛を吹き鳴らす。

「力を貸してアトルシャン!」

角笛の音は風に乗り、遠き空へと舞い上がった。

遠き日の約束を今

「タムリンが呼んでいる」

角笛の音は遥か遠いドラグリアにいるアトルシャンのもとまで届いていた。

彼女に危機が迫っていると知るや否や、いてもたってもいられなくなったアトルシャンは
龍族の長、白龍のもとを訪れた。

「アトルシャン、イシュバーンに行きたいのだろう?」

白龍には全てお見通しだった。

「しかし、龍の身ではイシュバーンに行ったとて、たちまち呪いに当てられ生きてはおれまい」
「無駄に命を落とすとわかっている者を行かせるわけにはいかん」

そう、何故か龍族だけを襲う忌まわしき呪い。そのために龍族はイシュバーンを追われたのだ。
呪いがイシュバーンを覆っている限り龍族に命はない。

「しかし!」
アトルシャンはそれでも行かなければならないと必死に訴えた。

そんなアトルシャンの決心を見かねて白龍は提案する。

「呪いから逃れる術はただ一つ。龍の墓場へ行け、そして龍族の秘宝、銀の鱗をとって来るのだ」
「それが出来たならイシュバーンへの異界の門を開いてやろう」

果たしてアトルシャンは龍の墓場の奥で銀色に輝く鱗を見つけたのであった。

「銀の鱗を胸に当てるがいい」

白龍に言われた通り、銀の鱗を胸に当てたアトルシャンをまばゆいばかりの光が包み込む。
瞬間身体に変化が起きていた。

「こっこれは人間の身体?」
自分の身体の変化に驚くアトルシャン。

そこにいたのは鱗のない白い肌、そして赤い髪の青年だった。

そう、龍族が呪いから身を守る唯一の方法。それはか弱き人間に転身する事だったのだ。

「ドラゴンとしての力は発揮できぬぞ?それでも行くのか?」

白龍の問いかけに対する答えに迷いはなかった。
全てはあの約束のために、タムリンを守るために。

今こそ、遠き日に交わされた一つの約束を果たすため、
人間の身体に龍の魂を宿した戦士アトルシャンはドラグリアを後にする。

そしてアトルシャンはイシュバーンの大地に降り立った・・・

壮大な物語はここから始まる。


あとがき?

 

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